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「信義誠実の原則」と「権利濫用の禁止」 - その4

(1)イントロ

今回は,12月27日(木)に書いた記事の続きです。

27日には,「自分勝手にならない限り自由」ということを知っていると,宅建試験に出題されるほとんどの科目(民法・借地借家法・区分所有法・不動産登記法・宅建業法・都市計画法・建築基準法・国土利用計画法・農地法・宅地造成等規制法・土地区画整理法)の理解が速くなると書きました。

さらに,「自分勝手にならない限り自由」ということを知っていると,民法だけに限定しても,(信義誠実の原則や権利濫用の禁止・相隣関係・不法行為・最近出題が多くなった最高裁判例)の理解が速くなると書きました。

(2)境界線(分かれ道)をいかに具体化できるかが勝負

そうなると,「自分勝手にならない限り自由」というフレーズからは,

【A】 自分勝手になるものは,お上(法律・最高裁判例)に規制されて,自由でなくなる
【B】 自分勝手でないものは,お上(法律・最高裁判例)に規制されず,自由のまま


に枝分かれして行くことになり,ここが宅建の問題の正誤の分かれ道にもなります。

だから宅建受験者の皆さまは,この【A】【B】の境界線(分かれ道)をいかに具体化して,日常用語で表現・理解できるかが勝負になります。

(3)一番使える境界線(分かれ道)

【C】 過去の表示と矛盾する行動は許されない(規制される)
【D】 過去の表示と矛盾しない行動は許される(規制されない)


というのが一番使える境界線(分かれ道)で,【C】を「禁反言(英語:estoppel)」といいます。

(4)具体例の1

平成24年度問4肢2にこんな問題が出ました。

「A所有の甲土地につき,Aから売却に関する代理権を与えられていないBが,Aの代理人として,Cとの間で売買契約を締結した。なお,表見代理は成立しないものとする。Aの死亡により,BがAの唯一の相続人として相続した場合,Bは,Aの追認拒絶権を相続するので,自らの無権代理行為の追認を拒絶することができる。」

登場人物
A…本人(売主)(死亡者・被相続人)
B…無権代理人(単独相続人)
C…相手方(買主)
です。

相続人Bは,被相続人Aの財産に属した一切の権利義務を受け継ぎます(民法896条)。

だから,無権代理人Bが本人Aを単独で相続した場合,Bは,無権代理を拒絶できる本人Aの地位と,無権代理を拒絶できないB自身の地位を両方受け継ぐことになり,「無権代理を拒絶するもしないも自由」になってしまいます。民法の相続に関する条文と代理に関する条文を当てはめると,こうなります。

しかし,この結論をとり,Bの追認拒絶を許すことは,相手の信頼を裏切らない事という「信義誠実の原則」から妥当じゃないです。

本問の無権代理人B(相続人)は,無権代理の時は「売る」と言っておきながら,相続したら「売らない」では,過去の表示と矛盾する行動は許されないとする禁反言であり,物事の道理に反し,世間が許さないという信義誠実の原則に反します。

そこで最高裁判所の判例は,「無権代理人Bが単独で本人Aを相続した場合,Bは,相手方Cに対して甲土地を引き渡さなければならない」として,Bに責任を負わせています。つまり,Bの追認拒絶を許さない,のが判例の立場なのです(昭和37年4月20日)。

したがって,「Bは,Aの追認拒絶権を相続するので,自らの無権代理行為の追認を拒絶することができる。」と書いてあるこの問題は,誤りの肢となるのです。

(5)具体例の2

平成24年度問4肢3はこんな問題でした。

「A所有の甲土地につき,Aから売却に関する代理権を与えられていないBが,Aの代理人として,Cとの間で売買契約を締結した。なお,表見代理は成立しないものとする。Bの死亡により,AがBの唯一の相続人として相続した場合,AがBの無権代理行為の追認を拒絶しても信義則には反せず,AC間の売買契約が当然に有効になるわけではない。」

登場人物
A…本人(売主)(単独相続人)
B…無権代理人(死亡者・被相続人)      
C…相手方(買主)
です。

相続人Aは,被相続人Bの財産に属した一切の権利義務を受け継ぎます(民法896条)。
だから,本人Aが無権代理人Bを単独で相続した場合,Aは,無権代理を拒絶できる本人自身の地位と,無権代理を拒絶できない無権代理人B自身の地位を両方受け継ぐことになり,「無権代理を拒絶するもしないも自由」になります。民法の相続に関する条文と代理に関する条文を当てはめると,こうなります。

本問の場合は,前の平成24年度問4肢2の問題と違って,無権代理の時は「売る」と言っておきながら,相続したら「売らない」という,過去の表示と矛盾する行動は許されないとする禁反言はないです。
相続人Aは,Bが無権代理行為した時は「売らない」つもりでした。Bを相続した後も「売らない」つもりが普通でしょう。だから,Aには禁反言はないです。

そこで最高裁判所の判例は,「本人が無権代理人を相続した場合には,被相続人の無権代理行為は,本人が無権代理人を相続したことにより,当然には有効にならない」としています(昭和37年4月20日)。

どういう事かというと,後は本人次第だということ。
本人Aが後で追認すればBが行っていた無権代理行為は有効になり,Aがそのまま放っておけば,Bが行っていた無権代理行為は無効のままということです。

したがって,「AがBの無権代理行為の追認を拒絶しても信義則には反せず,AC間の売買契約が当然に有効になるわけではない。」と書いてあるこの問題は,正しい肢になります。


平成24年12月28日(金)記


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